今回は自立支援介護基本4要素のうち、「運動」についてお伝えします。
ここでいう運動の中心は「歩行」です。自立の考え方は様々ですが、例えば、介助を必要とせずに自力でご飯を食べることは出来ても、お部屋から食堂まで歩くことが出来なければ、何らかの移動介助が必要となります。そのため、自立支援介護においては「歩行」を全ての活動の基礎として捉え、基本ケアに位置付けています。
要介護高齢者の方がスムーズに歩けなくなる理由として「足の筋肉が弱ったため」と思われがちですが、実は「歩き方を忘れているだけ」という方が少なくありません。何らかの怪我や病気などで長期間入院し、しばらく歩行できない日々が続くと、脳は歩き方=歩くための体の動かし方を忘れてしまいます。私たち人間は、歩く、食べる、話すなどの動作を身に付けて生まれてきた訳ではなく、失敗しながら何度も繰り返すうちに覚え、自然に出来るようになったのです。誰しもが、子供のころに覚えた教科書の内容を思い出せなくなっているように、歩き方も使わなければ忘れてしまうという現象が起きるのです。
逆に考えると、忘れているだけならば、再度思い出していただくことで、再び歩くことが出来るようになります。そのためには、歩くこと、繰り返し練習すること、練習量を増やすことの3点が必要です。ただし、歩けない方を急に一人で歩かせることは難しく、まずは、本人に適した歩行器などの道具を使ったり、両脇から介助者が支えたりすることで、少しでも足を前へ運んでいただきます。少しでも歩けたならば、脳が忘れないように毎日、何回も歩行練習を続けます。そして、次は歩く回数や距離を延ばしていきます。このように反復練習をすることで、再び歩けるようになり、自立への第一歩を歩むことになるのです。
もちろん、歩行だけが運動ではなく、当施設で導入している「パワーリハビリテーション」も大きな効果が得られます(詳しくは、以前の掲載記事をご覧ください)。その場合も、リハビリ室までの移動をリハビリの一環として捉え、歩いていただくように努めています。
運動をすると喉が渇き、お腹が空くため、水分摂取や栄養量の増加にも繋がります。体を動かすことで、スムーズな排便が可能になり、体調も安定します。このように運動は、基本ケア4要素が上手く連動するきっかけともなります。加えて、寝ているよりも立っている時、立っている時よりも歩いている時、より意識がはっきりとします。それにより、自分で尿意や便意を感じとり、トイレの失敗を防ぐことにも繋がります。更には、歩くことで視界が開け、刺激が生まれます。また、外出先の幅が広がり、当施設で取り組んでいる在宅復帰へ繋がる方もおられます。僅かな一歩が、心身の変化に大きな歩みをもたらすのです。
10月 | 自立支援介護とは何か? |
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11月 | 基本ケア①水分 |
12月 | 基本ケア②栄養 |
1月 | 基本ケア③排便 |
2月 | 基本ケア④運動 |
3月 | 基本ケア⑤まとめ |